こないだハーフマラソンを走った。沖縄本島北部の今帰仁村で行われているマジックアワーマラソン。マジックといってもマリック的なアレではなく、夕暮れ時西の水平線に沈んでいく太陽が作り出す金色の世界、奇跡の時間を楽しみながら走りましょうよということだ。今回で開催3回目のマジックアワーマラソンだが、これまでのところ第一回目は震災により中止、僕が初めて参加した去年の第二回目は豪雨、こないだの第三回もやっぱり豪雨ということで、実はまだ誰もマジックを体験していない。豪雨も半端ない豪雨でほとんど修行である。今帰仁役場から古宇利大橋を渡って古宇利島入り口までを往復するコース設定は過酷を極める。アップダウンの連続から障害物が何もなく風吹きすさぶ古宇利大橋を往復し終わるころには、雨と風で体温を奪われもう何でもいいから毛布が欲しいという気持ちしか残ってない。

そんな悲惨な思い出しかない去年を経て、なぜ今年も走ろうなんて思ったのか。その理由は単純で去年食べたサータアンダギーをもう一度食べたかった。沿道では地元の人たちがいろんなものを差し入れてくれる。それでやっぱり沖縄らしく、振舞われるものは黒糖だったりフルーツだったりするわけだが、それらの美味しさもさることながら、忘れられないのはおばあが差し入れてくれたサータアンダギーである。残り3kmくらいの地点を過ぎ、もうかなりしんどい膝痛くて泣きたいといった時に差し出されるあのサータアンダギーの美味しさといったらなかった。

それをもう一度味わいたいがために今年も参加したのである。そして今年もまた豪雨の中、折り返し地点を回った後はゴールというよりそのサータアンダギーを目指して気力で走っていた僕を待っていたのは、他ならぬあのサータアンダギーのおばあの不在だった。去年と同じ場所に黒糖や果物を配ってくれる人はいる。でもあのサータアンダギーのおばあだけがいない。その喪失感たるや尋常ではなかった。あのおばあ、結構高齢だったような気がする。サータアンダギーが食べられない悲しさというより、おばあの不在が心配になってきた。元気かな。もしもうこの世にいなかったらどうしよう。最後の3km、正直生きてさえいてくれればいいと祈りながら走った。